orm
Study of our land』


本作は、公私ともにパートナーである美術作家 藤井智也・高橋ちかやによるアーティストユニット、orm( オーム ) によるインスタレーション作品である。
家庭環境の中にある内向的になりがちな問題、事象を拾い上げ、個人と他者の衝突によるしがらみ、相互作用により見えてくる境界や領域などの社会におけるアイデンティティの問題に焦点を当てる。





『Study of Our Land_Dance』

2024年 シングルチャンネルヴィデオ, 3分55秒(ループ), サイズ可変

ステートメント:

本作は、子どもの成長過程において初期段階にのみ行われる授乳という経験を基に、泣いて空腹を訴える子どもの姿を「欲求の壺」と捉え、透明な壺にミルクが注がれ、それらが吸い取られていく映像作品である。ミルクは放物線を描きながら入っていき画面は徐々にホワイトアウト、ブラックアウトしていくことを繰り返す。
作品では、個の欲求と循環という普遍的な事象を、インターネット上のSNSにおける特定の思想や意見を持つ部族主義(トライバリズム)に照し合わせ言及する。オンライン上で自分と似た思想や意見を持った人間が有象無象に集り、肯定し合うことで自身の思想が増幅されるエコーチェンバー(※1)が表出される。結果的に異なる意見を排除し、閉鎖的コミュニティにおいて自身の承認欲求を満たし、帰属意識をより強固にさせる。管理された領域の中で、踊らされる群衆、それら現代における集団的アイデンティティの形について、人間の欲求という根源的な次元から再考を促そうと試みる。



※1 エコーチャンバーとは、SNSなどのインターネット空間において自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくる「反響室」のような狭いコミュニティの中で、同じような意見を見聞きし続けることによ、自分の意見が増幅・強化されることを指す。

〈参考文献〉キャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』毎日新聞出版、石川幸憲(訳)、2003



『Study of Our Land_Play』

2024年 ミクストメディア サイズ可変

ステートメント: 
本作は、自身の子どもがASD(自閉スペクトラム症)であったことから、その理解の難しさ、他者との関係を扱う作品である。ASDは、コミュニケーションの困難さや空間・人・特定の行動に対する強いこだわりがある発達障害であり、症状の一つとして同じ行為を繰り返すと言われている。これらの行動は脳の機能の特性によるものであるが、他者からは一見性格や趣向による特異な行動に見え、理解が得られないことが多いのが現状である。今作では、子どもが一人で行うこれらの繰り返し行為(遊び) を親(大人)である二人が模倣し演じる。一人で行っている行為を、二人で行うことで同じ行為の中に個の特性やズレのようなものが生じ、他者との対立や衝突といった敵対性が暗喩的に表出する。これら相互作用により立ち上がる境界や交差する領域の曖昧さは、この社会において個としてのアイデンティティという可視されにくい部分を思考させる。子育てという家庭環境の中にある内向的になりがちな問題を引き受け、個と個という最小単位の社会から、民族、領土、国家といった集団的アイデンティティの問題へとひらかれていく。
二人が模倣し演じた行為は、4つの映像作品として展開される。それらの映像に囲まれたエリアの床は赤褐色(※1)で塗られており、その中心には背を合わせた状態の椅子が二脚置かれている。鑑賞者は洞窟(※2)に見立てた赤い領域に足を踏み入れることで、他者又は内面化した自己と向き合うことになる。



※1 赤褐色は先史時代の洞窟壁画にも使われていた人類最古の顔料である。

※2 洞窟は別の世界につながる場所として考えており、そこでは宗教的集会、歌や踊りなどのパフォーマンスも行われていた説がある
〈参考文献〉トーマス・ヘイド、ジョン・クレッグ編集『Aesthetics and Rock Art』Ashgate、2005


作品映像 https://vimeo.com/1029237198/ea8ac637fc?share=copy



『Study of Our Land_Stars』

2024年 LEDライト, パラフィンワックス W400*H650mm

ステートメント :
本作では、自身の子どもが鏡に映る自分を見つめ笑いかける出来事を目の当たりにしたことをきっかけに、人間が鏡像という自己と他者を対象化し自己を認識し始める前段階にある、個のプリミティブな内面性を起点とし展開していく。私たちは鏡に映るそれらしい振る舞いや物事に対し、疑いを持つことなく現実を見出すが、本当にそれだけなのであろうか。
蝋(ロウ)でできた姿が映らない鏡(※1 )の中に、架空の星を存在させ、鏡面を大きな宇宙 (内面) と見立てる。鑑賞者がそれらの星を見ながら、思い思いに星を線で繋ぐことで星座(※2)を作ることができるワークシートを設置する。 自身または他者へのカテコライズ化に対し、人間の曖昧さ、捉えにくさという多様な見方を許容する、もう1つの鏡の存在について思考を巡らす試みである。



※1 紀元前一世紀に哲学者であるキケロCicero,. Marcus Tullius 106–43 BC)は、子どもを「自然の鏡」. (Speculum naturae)と呼んでいた。世俗的なことを超越し、人の本来性としての「自然」を映しだすものとして考られていた。
〈参考文献〉田中智志『<鏡の暗喩>の中で 脱構築できない無垢 』東京大学大学院教育学研究科 2019年7月


※2 星座は、各時代や文化圏において多様に制定されてきた歴史がある。例えば私たちが知る現在88 個の星座とは違い、古代中国では1星や2星といった少数の星によって構成された星座も多くあった。人類は手の届かない普遍的な存在である無数の星に対し特定の" 見立て" を行い意味付けをしてきた。
〈参考文献〉近藤二郎『星座の起源: 古代エジプト・メソポタミアにたどる星座の歴史』誠文堂新光社、2021



orm / オーム

2024 年より活動を開始した、美術作家 藤井智也・高橋ちかやによるアーティストユニット、orm( オーム)。Form とは英語で形、姿、外観、構造などを指すが、その頭文字である「F」を消すことで、本来単語に含まれている意味と形状を別のものに変えるという言葉遊びに由来する。公私ともにパートナーである二人が、家庭環境の中にある内向的になりがちな問題、事象を拾い上げ、個人と他者の衝突によるしがらみ、相互作用により見えてくる境界や領域など、この社会における個または集団のアイデンティティに対する問題に焦点をあて作品として展開している。
また2021年より香川県高松市にてアーティストランスペース「Syndicate」を運営。各地で展覧会の企画を行なっている。


https://syndicate-tak.com
IG: @syndicate_tak

個人
IG: tomoya____fujii
IG: noisy_eye